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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)232号 判決 1997年11月26日

神奈川県川崎市幸区堀川町72番地

原告

株式会社東芝

代表者代表取締役

佐藤文夫

訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

村松貞男

勝村絋

布施田勝正

野河信久

津軽進

小栗久典

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

犬飼宏

吉村宅衛

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第6960号事件について、平成7年6月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年7月11日に出願した実願昭58-107307号を原出願とする分割出願として、昭和62年7月10日、名称を「光学式ディスクレコード再生装置」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(実願昭62-105916号)をしたが、平成3年2月19日、拒絶査定を受けたので、同年4月11日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成3年審判第6960号事件として審理したうえ、平成7年6月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月24日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

光学式ディスクを載置可能なディスク収容部が形成され、キャビネットに対して水平方向に出入自在に設けられたトレイ本体を有し、該トレイ本体の入状態で前記ディスク収容部に載置された前記光学式ディスクがターンテーブルに装着される光学式ディスクレコード再生装置において、前記トレイ本体のディスク収容部に、大径及び小径の光学式ディスクのそれぞれの中心孔よりも大きく開口されて前記ターンテーブルが挿通される挿通孔と、段差を有して形成され、前記大径の光学式ディスクの径に対応して該大径の光学式ディスクの載置位置を規制する第1の位置決め部と、この第1の位置決め部の内側に該第1の位置決め部よりも浅い段差を有して形成され、中心が前記第1の位置決め部の中心と略一致し、前記小径の光学式ディスクの径に対応して該小径の光学式ディスクの載置位置を規制する第2の位置決め部とを設けてなることを特徴とする光学式ディスクレコード再生装置。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は、その出願前に公知の刊行物である実願昭56-13869号のマイクロフィルム(実開昭57-129274号、以下「引用例」といい、そこに記載された考案を「引用例考案」という。)に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項の規定により、実用新案登録を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願考案の要旨の認定、引用例の記載事項の認定、本願考案と引用例考案との一致点及び相違点(1)~(3)の認定、相違点(1)、(2)についての判断は、いずれも認める。

審決は、相違点(3)すなわち「第2の位置決め部の段差が、本願考案においては第1の位置決め部の段差よりも浅いのに対して、引用例に記載されたものでは、第1の位置決め部の段差に比してどのように構成されているのか明確でないこと」(審決書9頁14~18行)についての判断を誤り(取消事由1)、その結果、本願考案の有する顕著な作用効果を看過した(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  相違点(3)についての判断誤り(取消事由1)

(1)  審決は、相違点(3)の判断において、「大径又は小径のディスクをターンテーブルに装着するときの前記ターンテーブルと第1及び第2の位置決め部との相対ストロークは、第2の位置決め部の段差の大きさにより影響を受けるものであって、第1の位置決め部の段差と第2の位置決め部の段差の相対的な大小関係により影響を受けるものではないことが明かである。」(審決書11頁12~18行)というが、誤りである。

すなわち、光学式ディスクは、径の大小にかかわらずその厚みが一般的に等しいことから、これらのディスクの第1及び第2の位置決め部の段差は、当業者であれば同じ深さにすることを当然に考えるものであり、実際に、引用例(甲第5号証)や、実開昭59-161538号公報(甲第8号証)及び実願昭55-172505号のマイクロフィルム(実開昭56-157069号、甲第9号証)には、位置決め部の各段差の深さが実質的に等しいものが開示されている。一方、ターンテーブルの上下動のストロークは、第2の位置決め部の深さにより影響を受けるものであるから、上下動のストロークを短くすることは、結局、第2の位置決め部の深さを第1の位置決め部の深さよりも浅くすることにほかならない。

したがって、ターンテーブルと位置決め部との相対ストロークは、段差の相対的な大小関係により表されるものであり、審決の前記判断は、一方的な解釈であって誤りである。

(2)  また、審決は、「第1及び第2の位置決め部の各段差の深さは、ディスクの着脱の容易さ、ディスクの載置位置規制の正確さ、キャビネットに対するトレイ本体の出入の円滑さ、ディスクのターンテーブルに対する装着特性等を考慮して、当業者が適宜選定し得る設計的事項に過ぎない」(審決書11頁19行~12頁4行)と判断するが、これも誤りである。

すなわち、引用例には、大径及び小径ディスクの位置決め部の各段差の深さを決めるに当たり考慮すべき事項について何ら記載されておらず、第1及び第2の位置決め部の各段差を決める際に、なぜ、本願考案のように第2の位置決め部の段差が第1の位置決め部の段差よりも浅くする必要が生じるのか、その根拠は何ら説明されていないのであるから、そのようなものが単なる設計的事項であるとはいえるものではない。審決の上記判断は、引用例の記載に基づくものではなく、本願明細書及び図面を見た上で、その開示に基づいて審判官の憶測によりなされたものである。

したがって、審決が、第1及び第2の位置決め部の段差がどのように定まるのか、その理由をまったく明らかにすることなく、上記のとおり短絡的に、第1及び第2の位置決め部の各段差の深さは当業者が適宜選定し得る設計的事項に過ぎないと判断したことは、誤りである。

2  作用効果の看過(取消事由2)

本願考案は、第2の位置決め部の深さを第1の位置決め部の深さよりも浅くして、上下動のストロークを短くすることによって、ディスクのターンテーブルへの装着精度の向上、装着動作時間の短縮化及びキャビネットの薄型化を図る(甲第4号証3頁9~12行)という格別の作用効果を奏するものである。しかも、本願考案のような精密な光学式ディスク再生装置では、ターンテーブルのストロークが大きくなれば偏心した場合のずれも大きくなるから、ストロークを小さくすることが特に重要である。

これに対し、引用例考案のような非光学式オーディオディスクのレコードプレーヤでは、ストロークを小さくすることによる上記の作用効果は、何ら考慮されていないものである。

したがって、本願考案の作用効果は、引用例の記載事項から当業者がきわめて容易に予測できる範囲を超えるものであるから、この点に関する審決の判断(審決書12頁6~9行)は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  光学式ディスクは、厚みが必ずしも等しいものではなく、通常、厚みの異なるものも存在するから(特開昭58-98875号公報・乙第4号証及び特開昭58-100272号公報・乙第5号証)、第1及び第2の位置決め部の各段差を同じ深さにするとは限らず、また、大径及び小径のディスクの厚みが等しい場合であっても、上記各段差の深さの設定には、ディスク収容部における着脱の容易性と載置位置規制の正確さのみでなく、キャビネットへの大径のディスクの接触やターンテーブルへの装着特性の問題等、他にも考慮すべき重要な要件があるから、上記各段差の深さが等しいことは論の前提とはなりえない。また、本願明細書には、異径ディスクの厚みや、第1及び第2の位置決め部の各段差の深さが等しいことが前提になることは、記載されていない。

そうすると、この点に関する審決の判断(審決書11頁12~18行)には、誤りがなく、原告の、相対ストロークは、第2の位置決め部の段差が第1の位置決め部の段差より浅くなるという、段差の相対的な大小関係により表されるという主張は、存在しない前提に基づくもので、失当である。

(2)  また、引用例考案のように、第1及び第2の位置決め部を上下方向に段差を付けて同心円状に形成したトレイ本体が、キャビネットに対して水平方向に出入自在に設けられたディスクレコード再生装置においては、このトレイ本体の構造及び動作に起因して、第1の位置決め部の段差の深さは、そこに載置される大径のディスクがキャビネットに接触する恐れがあり、第2の位置決め部の段差の深さは、ディスクのターンテーブルへの装着所要時間や装置の小型化・薄型化に影響を及ぼすという本質的な特徴を有するものである。

そして、引用例考案の第1の位置決め部の段差については、大径のディスクが第1の位置決め部に多少傾斜して載置されたとしても、キャビネットに接触することなく、トレイ本体がキャビネットに対して円滑に出入りできなければならないことを考慮して、この段差の深さを、大径のディスクの容易な着脱や正確な位置規制だけを考慮した場合より大きく設定する必要があり、また、第2の位置決め部の段差については、ディスクのターンテーブルに対する良好な装着特性(短い装着所要時間)が得られるように、ターンテーブルと第1及び第2の位置決め部との相対ストロークを小さくする必要を考慮して、この段差の深さを、ディスクの容易な着脱や正確な位置規制ができる範囲内において、なるべく浅く設定する必要があるから、これらのことによれば、第2の位置決め部の段差を第1の位置決め部の段差より浅く設定することは、当業者が、当然考慮すべき設計的事項である。

したがって、この点に関する審決の判断(審決書11頁19行~12頁4行)には、誤りがなく、引用例には、第2の位置決め部の段差を第1の位置決め部の段差よりも浅くする必要性の根拠が明らかにされていないとの原告の主張には、理由がない。

2  取消事由2について

引用例考案に基づいて、当業者がきわめて容易に想到することができたものは、本願考案と同様に、第2の位置決め部の段差が第1の位置決め部の段差より浅く形成されるものであるから、ターンテーブル上へディスクを装着するための相対ストロークも短くなり、当然、本願考案と同じ作用効果を生じることになる。そうすると、本願考案は、格別の作用効果を奏するものではない。

したがって、この点に関する審決の判断(審決書12頁6~9行)に、誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点(3)についての判断誤り)について

本願考案の要旨の認定、引用例の記載事項の認定、本願考案と引用例考案との一致点並びに相違点(1)及び(2)の認定・判断、相違点(3)が「第2の位置決め部の段差が、本願考案においては第1の位置決め部の段差よりも浅いのに対して、引用例に記載されたものでは、第1の位置決め部の段差に比してどのように構成されているのか明確でないこと」(審決書9頁14~18行)は、いずれも当事者間に争いがない。

本願考案について、本願明細書(甲第3号、第4号証)には、「この考案は・・・簡易な構成で、且つ異径の光学式デイスクの各位置規制を容易に行ない得るようにした極めて良好な光学式デイスクレコード再生装置を提供することを目的とする。」(甲第3号証2頁3欄25~29行)、「第1及び第2の位置決め部16、17は、本来、大径及び小径のディスク12、13を確実に位置決めするのに十分な深さを持つように設計されるのが望ましい・・・しかしながら、・・・上下駆動機構による上下方向の移動ストロークを大きく設定しなければならなくなり、結果としてターンテーブル19への装着精度の悪化やキャビネット11の厚型化等を招くことになる。そこで、上下動のストロークに絶対的に影響する第2の位置決め部17の深さを第1の位置決め部16の深さよりも浅くすることにより、上下動のストロークを短かくするようにして、ターンテーブル19への装着精度の向上、装着動作時間の短縮化及びキャビネット11の薄型化を図るようにしているものである。一方、トレイ本体14上で一番上側に載置されることになる大径のディスク12は、その下面が上下動により第1の位置決め部16から離間されることによって再生可能になるため、第1の位置決め部16の深さは上下動のストロークに絶対的に影響するものではなく、また、大径のディスク12は、正確な位置決めが行なわれないと、トレイ本体14をキャビネット11内に引き込むときに支障を来すことがあるので、ある程度の深さを許容するようにしている。すなわち、第1及び第2の位置決め部16、17は、大径及び小径のディスク12、13のターンテーブル19への装着精度、キャビネット11の薄型化やトレイ本体14の出入動作の信頼性等を考慮して、それらの深さがそれぞれ決定されるようになっているものである。」(甲第4号証2頁末行~3頁22行)と記載されている。

これらの記載によれば、本願考案は、光学式ディスクレコード再生装置において、異径の光学式ディスクの各位置規制を容易に行い得ることを目的として、第2の小径ディスクの位置決め部の段差の深さを第1の大径ディスクの位置決め部の段差の深さよりも浅くすることにより、ディスク収容部に載置されたディスクをターンテーブルに装着する際の上下動のストロークを短くし、そのことによって、ターンテーブルへの装着精度の向上、装着動作時間の短縮化及びキャビネットの薄型化を図るものであると認められる。

これに対し、引用例考案について、引用例(甲第5号証)には、「押し込み型デイスクプレーヤに於てはガイド部材(6)を外筐(1)内で降下させる必要があり、ターンテーブル(4)上にデイスク(14)を載置するのに大きな駆動力を必要とするばかりでなく、高い嵌合精度を必要とする欠点を有する。本考案は上述の如き欠点を除いたプレーヤを提供するもので、その特徴とするところはガイド部材を外筐内で上下動させることなくデイスクのみをターンテーブル上に持ち来たすようにしたものである。」(同号証明細書4頁16行~5頁5行)、「本考案では外筐(1)内に搬送板(8)が出し入れ出来るようになされる。該搬送板(8)はデイスク(14)を載置し得る凹部(20)を設け、該凹部はデイスク外径より大となし中央部分には後述するクランパーが通過し得る大きなの透孔(20)′を穿つようになす。」(同5頁9~14行)、「第6図に於てモータ(36)を動作させると、・・・クランパー(23)は上動し・・・デイスク(14)はターンテーブル(4)にクランプされる。」(同7頁4~13行)、「第7図に示す如く搬送体のディスク挿入凹部・・・凹部(20)はデイスクの直径に応じて(20a)(20b)の如く搬送体に多段に設ければよい。」(同8頁13~17行)、「本考案は上述の如く構成させたので、搬送体の移動だけで外筐、ターンテーブル用モータ等は通常と変らず機械的ずれが発生せずデイスクの着脱が容易に行なえて、その実用的効果は大きい。」(同9頁10~14行)と記載されている。

これらの記載によれば、従来のディスクレコード再生装置では、搬送板とディスクを収納保持するガイド部材を降下させて、ターンテーブル上にディスクを載置する構成のため、高い嵌合精度を必要とする欠点を有していたことから、引用例考案のディスクレコード再生装置では、この欠点を解決することを技術課題として、ターンテーブルに向かって移動する嵌合部材をディスクのみに限定し、異径のディスクを載置できる第1及び第2の位置決め部から、ディスクをターンテーブルに向かって上下に移動させ、これに嵌合装着させるようにしたものであり、その結果ディスクの着脱も容易に行えるものと認められる。つまり、引用例考案においては、できるだけ簡易な構成により、ディスクを正確に上下動させて、ターンテーブル上にこれを嵌合・載置することが技術課題とされ、その課題解決のために、ターンテーブルに向かって上下動する部材をディスクのみとする構成を採用したことが明らかである。

ところで、一般に、部材を移動させて嵌合させる場合に、当該部材間の移動距離を小さくするほど嵌合するときの装着精度が向上することは、当裁判所にも顕著な機械工学上の技術常識であるところ、引用例考案においても、ディスクを正確に上下動させて、ターンテーブル上にこれを嵌合・載置させるという上記技術課題が存する以上、この課題解決のために、その位置決め部(引用例考案の凹部20a、20b)と、ターンテーブルとの離間距離、すなわち、本願考案と同様に上下動のストロークを不必要に大きくしないよう、位置決め部の段差を小さくすることは、当業者が当然考慮すべき事項であるというべきである。また、上下動のストロークを小さくすることによって、装着動作時間の短縮化及びキャビネットの薄型化が図れることも、技術的に自明な事項と認められる。

このように、ターンテーブル昇降型のディスクレコード再生装置において、上下動のストロークを小さくすること及び装置の薄型化を図ることが技術課題であることは、ビデオデイスクプレーヤのターンテーブル装置の考案に関する出願明細書(実願昭56-21449号、実開昭57-138166号、乙第6号証の1、2)に、「ターンテーブルまたは昇降板の上下ストロークを小さくし、装置の小型軽量化を図ることができる」(乙第6号証の1明細書1頁18~20行)と記載されるとおり、本願出願以前から、光学式あるいは非光学式の別を問わずよく知られていた課題であると認められる。

また、引用例考案のような、異径のディスクを同心円状に載置できる第1及び第2の位置決め部を有する凹部が、水平方向に出入して再生装置のキャビネット内に収納される形式のレコードディスク再生装置では、大径のディスクの載置位置を規制する第1の位置決め部の段差は、ディスク自体が正確に位置決めされるだけでなく、ディスクがキャビネットに接触しないように、ある程度の深さに設定する必要があることは当然の技術事項であると認められる。これに対し、小径のディスクの載置位置を規制する第2の位置決め部は、第1の位置決め部の内方に更に凹部をもって形成されるから、第1の位置決め部の段差が適正に設定されれば、載置された小径のディスクがキャビネットに接触する可能性は極めて低くなり、その結果、当該ディスク自体が正確に位置決めされる程度に位置決め部の深さを設定しておけば足りるものといえる。そして、大径又は小径のディスクがターンテーブル上に装着されて再生される場合、いずれのディスクであっても第1の位置決め部から同じストロークだけ離間した位置で回転され、この位置は第1の位置決め部の段差の深さとは無関係に設定されるから、上記の上下動のストロークを小さくするという観点からは、第2の位置決め部の深さのみをできるだけ浅く設定することが望ましいことも、当業者にとって自明な技術事項であるといえる。

したがって、審決が、「第1の位置決め部の段差は、大径ディスクをディスク収容部に容易に着脱でき、その載置位置を正確に規制できる深さを有し、且つ大径ディスクを収容した状態のトレイ本体がキャビネットに対して円滑に出入できる深さを有していなければならないこと、また前記第2の位置決め部の段差は、小径ディスクをディスク収容部に容易に着脱でき、その載置位置を正確に規制できる深さを有していなければならないこと、さらに前記第1の位置決め部及び第2の位置決め部の各段差は、大径又は小径のディスクをターンテーブルに装着するとき、良好な装着特性が得られる深さを有していなければならないことは、いずれもディスクレコード再生装置において当業者が当然考慮すべき事項である。そして、大径又は小径のディスクをターンテーブルに装着するときの前記ターンテーブルと第1及び第2の位置決め部との相対ストロークは、第2の位置決め部の段差の大きさにより影響を受けるものであって、第1の位置決め部の段差と第2の位置決め部の段差の相対的な大小関係により影響を受けるものではないことが明かである。」(審決書10頁17行~11頁18行)と判断したことに誤りはない。

原告は、引用例には、大径及び小径ディスクの位置決め部の各段差の深さを決めるに当たり考慮すべき事項について何ら記載されておらず、第2の位置決め部の段差が第1の位置決め部の段差よりも浅くする必要が生じるのか、その根拠は何ら説明されていないのであるから、そのようなものが単なる設計的事項であるとはいえないと主張する。

しかし、前示のとおり、引用例では、ディスクを正確に上下動させて、ターンテーブル上にこれを嵌合・載置させることが技術課題とされているものと認められ、この課題解決の観点から、その位置決め部とターンテーブルとの離間距離、すなわち、上下動のストロークを不必要に大きくしないため、位置決め部の段差をできるだけ浅くすることは、当業者が考慮すべき技術事項であることが明らかであり、このことは、前示のビデオデイスクプレーヤのターンテーブル装置の考案(乙第6号証の1、2)においても、開示されるところである。

また、引用例においては、異径のディスクを載置できる第1及び第2の位置決め部を有する凹部が、再生装置のキャビネット内に収納される形式の再生装置が開示されているから、このような引用例に接した当業者は、前示のとおり、その第1及び第2の位置決め部の各段差は、大径又は小径のディスクをターンテーブルに正確に装着できるような深さを有していなければならないと考えるとともに、大径のディスクの載置位置を規制する第1の位置決め部の段差は、キャビネットに接触しないようにある程度の深さに設定し、小径のディスクの載置位置を規制する第2の位置決め部は、上下動のストロークを小さくするという観点から、できるだけ浅く設定することが望ましいと理解するものといわなければならない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

また、原告は、光学式ディスクは、径の大小にかかわらずその厚みが一般的に等しいから、これらのディスクの第1及び第2の位置決め部の段差は、当業者であれば同じ深さにすることが当然予想され、他方、ターンテーブルの上下動のストロークを短くするためには、第2の位置決め部の深さを浅くするわけであるから、結局、第2の位置決め部の深さを第1の位置決め部の深さよりも浅くすることになり、ターンテーブルと位置決め部との相対ストロークは、段差の相対的な大小関係により表されるものであると主張する。

しかし、様々な径を有する光学式ディスクにおいて、その厚みが必ずしも同一でないことは、特開昭58-98875号公報(乙第4号証)及び特開昭58-100272号公報(乙第5号証)の各17図、18図に示されるとおりであるし、本願明細書(甲第3、第4号証)にも、異径のディスクの厚みが等しいことや、第1及び第2の位置決め部の各段差の深さが等しいことが当然の前提になる旨は記載されていないから、原告の主張はその前提を欠くものである。確かに、ターンテーブルの上下動のストロークを短くするためには、第2の位置決め部の深さを浅くすることが重要であることは、前示のとおりであるが、それは、第1の位置決め部の深さよりも浅くするという相対的な大小関係により決定されるものでないことは明らかである。原告の主張は、失当といわなければならない。

以上のとおり、審決が、「第1及び第2の位置決め部の各段差の深さは、ディスクの着脱の容易さ、ディスクの載置位置規制の正確さ、キャビネットに対するトレイ本体の出入の円滑さ、ディスクのターンテーブルに対する装着特性等を考慮して、当業者が適宜選定し得る設計的事項に過ぎない」(審決書11頁19行~12頁4行)と判断したことに、誤りはない。

2  取消事由2(作用効果の看過)について

前示のとおり、本願考案及び引用例考案のような異径のディスクを取り扱うディスクレコード再生装置において、異径の位置決め部の段差の深さを、位置規制機能が果たされる範囲でできるだけ浅くして、上下動のストロークを小さくした構成を採用することは、当業者が適宜選定し得る設計的事項に過ぎない。そうすると、引用例考案において、このような構成を採用すれば、上下動のストロークを短くすることによって、ディスクのターンテーブルへの装着精度の向上、装着動作時間の短縮化及びキャビネットの薄型化を図るという本願考案の有する作用効果を奏することは、当業者にとって容易に予想されるところである。

原告は、本願考案のような精密な光学式ディスク再生装置では、ディスクのターンテーブルへの装着精度の向上が特に重要であると主張するが、光学式あるいは非光学式のいずれにおいても、ディスクレコード再生装置である以上、上下動のストロークを小さくしてディスクのターンテーブルへの装着精度を向上させることは、その両者に共通する普遍的な技術課題であると認められるから、原告の主張は採用できない。

したがって、審決が、「本願考案を全体的にみても、上記引用例に記載された事項、及び上記周知の事項から当業者が当然予測できる範囲を超える格別の作用・効果を見出すことができない。」(審決書12頁6~9行)と判断したことに誤りはない。

3  以上のとおり、原告の取消事由の主張はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成3年審判第6960号

審決

神奈川県川崎市幸区堀川町72番地

請求人 株式会社東芝

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 鈴江武彦

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 村松貞男

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 坪井淳

昭和62年実用新案登録願第105916号「光学式ディスクレコード再生装置」拒絶査定に対する審判事件(平成5年5月6日出願公告、実公平5-16676)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

(手続の経緯)

本願は、昭和58年7月11日に出願した実願昭58-107307号の一部を昭和62年7月10日に分割して新たな実用新案登録出願としたものであって、当審において平成5年5月6日に出願公告がなされたところ、シャープ株式会社、松下電器産業株式会社、株式会社ケンウッド、安永真介、桃崎元博、日本ビクター株式会社、及び三洋電機株式会社からそれぞれ実用新案登録異議の申立てがあったものである。

(本願考案の要旨)

本願考案の要旨は、上記出願公告後の平成6年4月26日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「光学式ディスクを載置可能なディスク収容部が形成され、キャビネットに対して水平方向に出入自在に設けられたトレイ本体を有し、該トレイ本体の入状態で前記ディスク収容部に載置された前記光学式ディスクがターンテーブルに装着される光学式ディスクレコード再生装置において、

前記トレイ本体のディスク収容部に、

大径及び小径の光学式ディスクのそれぞれの中心孔よりも大きく開口されて前記ターンテーブルが挿通される挿通孔と、

段差を有して形成され、前記大径の光学式ディスクの径に対応して該大径の光学式ディスクの載置位置を規制する第1の位置決め部と、

この第1の位置決め部の内側に該第1の位置決め部よりも浅い段差を有して形成され、中心が前記第1の位置決め部の中心と略一致し、前記小径の光学式ディスクの径に対応して該小径の光学式ディスクの載置位置を規制する第2の位置決め部とを設けてなることを特徴とする光学式ディスクレコード再生装置。」

(引用例)

これに対して、実用新案登録異議申立人シャープ株式会社が、公知の刊行物として提示した甲第1号証:実願昭56-13869号(実開昭57-129274号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)、並びに周知の技術事項を開示する刊行物として提示した甲第2号証:特開昭58-14366号公報(昭和58年1月27日公開)(以下「周知例1」という。)、及び同じく甲第3号証:特開昭57-88560号公報(以下「周知例2」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)引用例

引用例には、外筐(1)に対して搬送板(8)が水平方向に出入自在に設けられ、該搬送板にはディスク(14)を載置し得る凹部(20)が形成されたレコードプレーヤが開示されている(第5頁5行~第8頁17行、及び第5~7図)。そして、特に第7図をみれば、前記搬送板(8)の凹部(20)に段差を有して形成され、ディスクの直径に対応する内側段部(20a)及び外側段部(20b)を設けることが開示されている(第8頁13行~17行)。

してみれば、上記引用例には次の事項が記載されていることになる。

「ディスク(14)を載置可能な凹部(20)が形成され、外筐(1)に対して水平方向に出入自在に設けられた搬送板(8)を有し、該搬送板の入状態で前記凹部(20)に載置された前記ディスクがターンテープル(4)に装着されるディスクレコードプレーヤにおいて、

前記搬送板の凹部に、

大径及び小径のディスクのそれぞれの中心孔(14a)よりも大きく開口されてクランパー(23)が挿通される透孔(20')と、

段差を有して形成され、前記大径のディスクの径に対応して該大径のディスクの載置位置を規制する外側段部(20b)と、

この外側段部の内側に段差を有して形成され、中心が前記外側段部の中心と略一致し、前記小径のディスクの後に対応して該小径のディスクの載置位置を規制する内側段部(20a)とを設けてなるディスクレコードプレーヤ。」

(2)周知例1

上記周知例1には、光学的方式及び静電容量方式等のデジタルディスクプレーヤのローディング装置が開示されており、さらに詳細には、前記ローディング装置において、ディスク(11)を収容すると共に、キャビネットに対して水平方向に出入自在に設けられたディスクホルダー(14)を備え、このディスクホルダー(14)にはディスク(11)を位置決めする湾曲状の段部(143)と、ディスクテーブル(12)が挿通される透孔(144)が形成されており、前記ディスクホルダー(14)の入状態で、前記湾曲状の段部(143)により位置決めされた前記ディスク(11)を前記ディスクテーブル(12)に装着することが記載されている。(特に、第2頁右下欄7行~第3頁左上欄12行参照)

(3)周知例2

上記周知例2には、機械的又は光学的に再生し得るディスク状記録媒体の自動装着装置が開示されている。この自動装着装置は、ディスク状記録媒体(7、7’)を収容すると共に、プレーヤ本体に対して水平方向に出入自在に設けられた摺動部材(2)を備えている。また、この摺動部材(2)は、ガイド部(2a)と平板部(2b)とから成っており、前記ディスク状記録媒体(7、7’)を位置規制部(6a)で位置決めする位置規制部材(6)を有し、且つ前記平板部(2b)と位置規制部材(6)には、記録媒体支持部(10)が挿通される切欠きが形成されている。そして、前記自動装着装置は、前記摺動部材(2)の入状態において、前記位置規制部材(6)により位置決めされた前記ディスク状記録媒体を前記記録媒体支持部(10)に装着することができるものである。(特に、第2頁右上欄17行~同頁右下槻18行、第3頁右上欄16行~同頁右下欄10行、及び第1~3図参照)

(本願考案と引用例開示事項との対比)

そこで、本願考案と引用例に記載されたものとを対比すると、前記引用例に記載されたものにおける「凹部」、「外筐」、「搬送板」、「レコードプレーヤ」、「透孔」、「外側段部」、及び「内側段部」は、それぞれ本願考案における「ディスク収容部」、「キャビネット」、「トレイ本体」、「レコード再生装置」、「挿通孔」、「第1の位置決め部」、及び「第2の位置決め部」に相当するものと認められるから、両者は、

「ディスクを載置可能なディスク収容部が形成され、キャビネットに対して水平方向に出入自在に設けられたトレイ本体を有し、該トレイ本体の入状態で前記ディスク収容部に載置された前記ディスクがターンテーブルに装着されるディスクレコード再生装置において、

前記トレイ本体のディスク収容部に、

大径及び小径のディスクのそれぞれの中心孔よりも大きく開口されて、前記ディスクの支持回転部材が挿通される挿通孔と、

段差を有して形成され、前記大径のディスクの径に対応して該大径のディスクの載置位置を規制する第1の位置決め部と、

この第1の位置決め部の内側に段差を有して形成され、中心が前記第1の位置決め部の中心と略一致し、前記小径のディスクの径に対応して該小径のディスクの載置位置を規制する第2の位置決め部とを設けてなるディスクレコード再生装置。」である点において実質的に一致するが、本願考案は、次の各点において前記引用例に記載されたものと相違する。

相違点

(1)ディスクが、本願考案においては光学式ディスクであるのに対して、引用例に記載されたものでは、どのような方式のものか明確に特定されていないこと。

(2)ディスク収容部の挿通孔に挿通される支持回転部材が、本願考案においてはターンテーブルであるのに対して、引用例に記載されたものではクランパーであること。

(3)第2の位置決め部の段差が、本願考案においては第1の位置決め部の段差よりも浅いのに対して、引用例に記載されたものでは、第1の位置決め部の段差に比してどのように構成されているのか明確でないこと。

(当審の判断)

以下、上記各相違点について検討する。

相違点(1)~(2)について

トレイ本体のディスク収容部に載置されたディスクをターンテーブルに装着するディスクレコード再生装置において、ディスクとして光学式ディスクを用いると共に、前記ターンテーブルを前記ディスク収容部の挿通孔に挿通するよう構成することは、上記周知例1~2にも開示されているとおり従来から周知の事項であり、この周知の事項を上記引用例に記載されたものに採用するのに格別困難な点は認められないから、上記相違点(1)~(2)は、前記周知の事項に基づいて当業者がきわめて容易に想到することができたものと認められる。

相違点(3)について

トレイ本体のディスク収容部に設けられた第1の位置決め部と第2の位置決め部の段差について検討すると、前記第1の位置決め部の段差は、大径ディスクをディスク収容部に容易に着脱でき、その載置位置を正確に規制できる深さを有し、且つ大径ディスクを収容した状態のトレイ本体がキャビネットに対して円滑に出入できる深さを有していなければならないこと、また前記第2の位置決め部の段差は、小径ディスクをディスク収容部に容易に着脱でき、その載置位置を正確に規制できる深さを有していなければならないこと、さらに前記第1の位置決め部及び第2の位置決め部の各段差は、大径又は小径のディスクをターンテーブルに装着するとき、良好な装着特性が得られる深さを有していなければならないことは、いずれもディスクレコード再生装置において当業者が当然考慮すべき事項である。

そして、大径又は小径のディスクをターンテーブルに装着するときの前記ターンテーブルと第1及び第2の位置決め部との相対ストロークは、第2の位置決め部の段差の大きさにより影響を受けるものであって、第1の位置決め部の段差と第2の位置決め部の段差の相対的な大小関係により影響を受けるものではないことが明かである。

してみれば、前記第1及び第2の位置決め部の各段差の深さは、ディスクの着脱の容易さ、ディスクの載置位置規制の正確さ、キャビネットに対するトレイ本体の出入の円滑さ、ディスクのターンテーブルに対する装着特性等を考慮して、当業者が適宜選定し得る設計的事項に過ぎないから、上記相違点(3)は格別のこととは認められない。

そして、本願考案を全体的にみても、上記引用例に記載された事項、及び上記周知の事項から当業者が当然予測できる範囲を超える格別の作用・効果を見出すことができない。

(むすび)

以上のとおりであって、本願考案は、引用例に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年6月27日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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